スイスの奇跡 それは「プライベート・バンカー」
今回もスイスの「プライベート・バンカー」についてのお話です。
スイスの「プライベート・バンカー」を誰でも名乗れない
日本では「プライベート・バンカー」という言葉の意味を厳密に意識せずに使っているケースが多い様です。しかし、スイスにおいては「Private Banker(プライベート・バンカー)」という言葉は、厳格に使い分けられており、誰でも名乗れる名称ではありません。
スイスにおいては「プライベート・バンカー」という名称は単独または複数個人やその一族によって経営されている銀行のことを指しています。これはスイスの銀行法で明確に規定されており、ある一定の条件を満たしている銀行にだけ与えられた「称号」である事はあまり知られていない事実なのです。
スイスで「プライベート・バンカー」を名乗るためには?
さて「プライベート・バンカー」という名称の利用は、スイスでは法的に明確に制限されている事を前回説明しました。それではどんな条件を満たせばこの「プライベート・バンカー」とを名乗る事ができるのでしょうか? 基本的には以下の条件を満たして無ければなりません。
- 条件1:個人経営、合名会社、合資会社、もしくは株式を発行しているパートナーシップ形態で設立登記済みの金融機関であること
→パートナーの少なくとも一人が無限責任を負う事 - 条件2:無限責任のパートナーもしくは他のパートナーの過半数がスイス国民であること
→スイス人による経営である事 - 条件3:無限責任のパートナーが最低3年間は同協会メンバーの経歴を有すること
→プライベート・バンカーとしての実績を持つ事
これらの条件をクリアーを上で初めて「プライベート・バンカー」の名称を名乗る事が出来ます。
無限責任で所有する経営者と有限責任の経営者及び株主
プライベート・バンカーズ(プライベート・バンク)の条件に「パートナーの一人が無限責任を負う事」という条件があります。何を隠そうこの条件が最も「プライベート・バンカー」の特色を表していると言えます。
資本市場が発展した昨今、有限責任や株式会社形態による「一般的プライベート・バンク」が世界的な主流です。株式会社である「一般的」プライベート・バンクは通常株主に所有されており、株主の責任はその出資の範囲に限られます。また、経営者は会社に雇用されており、顧客に対して個人的な責任を負う事はありません。経営者はむしろ株主に対しての責任がより無限に強く、一般的「プライベート・バンク」においては株主が最も強い立場にあることは歴然としています。
一方、プライベート・バンカーには「株主」といったものが存在していません。存在するのは所有者であり経営者であるパートナーです。プライベート・バンカーは顧客の利益(と自身の利益)だけを追求する事が可能です。そして、顧客に対して無限の責任を負うこととなっています。
プライベート・バンカーであれば、
「経営者は、会社を所有しながら顧客に対しては無限の責任を負いながら、主に顧客のために業務を行なう。」
一言で表すとこういう事になります。
プライベート・バンクであれば、
「経営者は、顧客に対しては限られた責任だけを負いながら、主に株主のために業務を行なう。」
となるわけです。
今まで、大手のプライベート・バンカーであったピクテ、ロンバー・オーディエ、ミラボーの3行が、無限責任パートナーシップ制を維持するにはその規模が大きくなりすぎたため、有限責任制に移行することは必然的な流れと言えます。
いずれにせよ、プライベート・バンカーは会社組織でありながらも、限りなく個人の特徴を備えた銀行なのです。このことが「プライベート・バンカー」を「プライベート・バンク」とを決定的に違えている最も大きな要因なのです。
プライベート・バンカーの特徴
プライベート・バンカーには名声と歴史がありました。それ以外にはどんな特徴があるのでしょうか?
彼らの価値観として上げているのは「伝統、永続性、柔軟性、個別性、慎重かつ自由な裁量」です。これらに沿った経営やサービスは顧客に幾つかのアドバンテージをもたらしてきました。
それらは、 「自然人としての自由、裁量、柔軟性、個別性等の特徴と、組織としての安定性、信頼性等を兼ね備えた銀行」 である事によって実現化しているのです。
プライベート・バンキングを提供する銀行は星の数ほど存在しますが、こう言った特徴を備えた銀行はスイスにしかありませんでした。そして、そのスイスにもおいても僅か2021年現在で5行しか存在していません。21世紀になった現在「プライベート・バンカー」と呼ばれる銀行の存在は、スイスの歴史や地勢によってこそ、為しえている奇跡の一つなのかもしれません。
次回は具体的な特徴や個別の銀行についてです。